俺は、行動できない。
彼はよく考える男だった。
「よく考えてから行動しな」
なんて言葉をよく聞いた。
だから考えることは大事で、実際そうしていたと思う。
何かするにもよく考えて、物事は慎重に行う物だと思っていた。
何も考えずに行動して失敗するやつは愚かだと思っていた。
「ちゃんと考えてからやればうまく出来る」
そういう考えが彼には染みついていた。
そういう生き方はどうだったのか?
実際うまく行くことも多かった。
考え通りにことが運んで、思い通りになるのは楽しかった。
リスクを抑え最善を選ぶ。
当然行き着く答えだ。
時には誰かの代わりに考え、最善をもたらすこともした。
世の中には考えられない人もいるらしい。
愚かなことだと思っていた。
だが、そうやって考えていい答えがあっても、必ずしもそうできるわけではなかった。
なにをすべきかはわかっていても体が痛くて出来ないとか。
精神的な面で抵抗があるとか。
その行動をとるのがイヤだと思う要素があるとか。
色々な要因で最善の「行動」がとれなかった。
そうなるとだんだん彼の生活は楽しくなくなっていった。
いい行動がとれないからいい結果が得られない。
悪い結果になれば物事はイヤになっていく。
そうしているうちに多くのことがイヤになっていった。
イヤになってしまったので新しいことをしたくなった。
だが新しいことは彼には難しかった。
なのでよく考えた。
よく考えたが答えは出なかった。
当然のことだ、自分の知らない新しいことで最善の答えなどでるはずがない。
答えが出ないから考えるが、最善かどうかわからない。
とりあえずやるとよさそうなことでも、よくわからないから行動に移せない。
そして彼はそのまま考えるだけになってしまった。
たまに思いついたいいことも何も形にならなければ意味がない。
それは世の中にとってはないものと同じだ。
「行動したやつが勝つ」
いつの間にかそんな言葉を見聞きすることが多い時代になっていた。
しっかり考え、慎重にちゃんとした準備をしていい物にしていく。
そうではなくとりあえずで形にしたものでも、
人の目に触れることが出来るようになった、個人の時代。
変化の速い時代に答えはない。
各々が試行錯誤していくしかない。
ようやく彼にもそれがわかったが、相変わらず行動できないでいた。
原因がよくわからなかった。
意思が弱いから?
誘惑が多いから?
何かを恐れているから?
そうして彼はまた、行動できない理由の答えを求めて考えるのであった。